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  北欧とタラ料理について
さてさて、その他に何かその外に美味しいものがあるかと思い出しても、ニシンの酢漬け、ビーツ、スモークドサーモンなど、決まりきったものしか浮かんでこないがその中では、トナカイの肉は調理法にもよるが、苔桃のジャムと合わせると意外に美味しかった。

そういえば、忘れてはいけないものがひとつある。タラ料理である。日本のタラは形が小さく、生食で食べるので水っぽいが、その代わり淡泊な良さがあり、鍋料理には適しているようだ。しかし、私が言うのはこの生タラのことではない。

塩干ししたタラのことである。京都の棒ダラとは違うが、乾燥させることによって一層旨みが増し、生ダラとは比較にならない美味な食材になるのだ。クリームソースやパプリカのソース、そしてトマトソースで煮込むのである。戻した塩ダラをオリーブオイルやベーコン油を、ニンニクで炒め、じゃがいもを加えてトマトソースで煮込む料理は各地で見られるが、じつに美味しいもので私の大好物である。

スペインではバカラオ、ポルトガルではバカリャオ、イタリアでバッカラ、フランスでモリューと呼ぶ。漁獲地ノルウェーでもこれを食すのであるが、バターとクリームをたっぷり使ったほとんど同じような調理法だけで味付けについても塩気が強すぎる嫌いがある。供給先のラテン諸国の方が実にさまざまな工夫をして、美味しくタラを料理する。味覚の違いもあるのであろうが、全く別物を食べている気になるものである。北欧の人たちによる魚の調理方法は、単純すぎて日本人の口には、できるものはない。

アングロサクソンの延長という意味でアメリカの食べ物について触れると、これはあくまで一般的に言うのだが、美味しいものはない。ハンバーガー、フライドチキン、T−ボ−ンステーキ、コーラetc......。歴史が浅く、文化的にも未成熟なため、仕方のないことかも知れない。

アメリカ料理ではないが、現在はアメリカ料理として米国民の間に浸透している、本来はメキシコ料理であるタコスやチリビーンズについて言えば、これらはまだ味覚的に日本人にも合うのかも知れない。中にはアメリカのアイスクリームはとても美味しいという人もいるが。

アメリカではビーフステーキをおなか一杯食べたいと思っても、皮をむいていないポテトと350g以上の牛肉のかたまりがドカンと皿に載っているだけで、何の繊細さもないものである。350g以上と書いたが、それはスタンダードのステーキサイズであって、ニューヨークカットになると500g位の大きさになり、ヒューストンやダラスなどのテキサスで出てくるテキサスカットは650gはありそうで、盛られた皿を見ただけで食欲が減退しそうだ。カロリーとビタミンだけ、と私が思うゆえんだ。

アメリカで印象に残った一番おいしかった料理はエスキモー(最近ではイヌイットと呼ぶらしい)のコツビューで食べたサラダである。その時はポークソティーの450g位のものを食べていて途中で食べきれなくてイヤになり、口直しにメニューを開いてフレッシュサラダを注文したのであるけれど、まさか北極圏内の氷点下40度という土地でサラダなど食べるとは思ってもいなかった。あまりにも新鮮で美味しかったので聞いてみたら、昨晩我々(前出の畠中君)と一緒の飛行機でカリフォルニアから乗り継いで到着したばかりの新鮮な野菜だったのである。後で判ったが、北極圏のアラスカといえどもアメリカを構成する州である。その中に北辺の国境警備についている米軍の基地があることと、エスキモーの人達のため、150人乗りの航空機の後部を改修し、全体の3分の2くらいのスペースを空けて物資の輸送を主目的にした貨客飛行機を週2便往来させている。それに昨晩乗せられてきて冷蔵庫内で保存され、取り出されたものであるとのことだった(エスキモーでは外気に放りだしておけばすぐに凍結するので冷蔵庫で保管しなければならないのである)。

このようなことを考えてみれば、その時のサラダはカリフォルニアの産地で食べればもっと新鮮で美味しかったことは当然であろうが、予期しない出会いに感激することによって胃袋の働きが活発になり、意識による有り難みもこれに加わって、ことさらに美味しく感じたに違いない。美食というものの何たるかについて考えなければならない要素を持っているように思われる。

地中海太郎

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