 |
イギリスの食事は、その味覚等のレベルがドイツに共通している部分もあり、同時にアメリカにも共通するのでイギリスを中心にこれらの国のことも書くことにする。北欧、いわゆるスカンジナビアについては少し異なると思われる部分があるが、概ねアングロサクソン、ゲルマンと同じものとしてここに加える。
さて、何から書けばよいのかとふと考えさせられるのは何故だろうか。初めてロンドンに出かけたとき、ヒースロー空港に着陸する機上から、あれがテームズ川だ、ロンドンブリッジだと感激を味わったが、この国の料理についてはあまり満足した想い出はない。最初の頃は当然ローストビーフを頻繁に注文し、時にはフィッシュ・アンド・チップスを頼んだりしたのだが、毎日このようなものでは物足りなくなり、ソホーやピカデリー近辺にある中華料理店に入って空腹を満たしたものである。
ロンドンの中華は日本のあっさりしたものと違ってラーメンなどの具材が豊富に入って、贅沢な気はしたが、やはり日本で慣れ親しんだ麺の、のどごしや舌ざわりとはどこか違っていて、美味しいけれど満足しきれない感じがする。結局、何倍か高くつくのを覚悟しながら日本食を食べさせてくれる所を探して、やっとほっとして、その後パブで一杯ひっかけてホテルに帰るというパターンがくり返されることになったのである。
私は元々甘くておいしいデザートなどは好きなのだが、近頃はカロリー制限の必要から、これらを敬遠しているので、お菓子などについて論ずる資格はないが、この国におけるアフタヌーンティーという喫茶の習慣は心地良く気に入っている。素晴らしい形式美もあり洗練されていて。ナイトブリッジのハロッズなどに立ち寄ったなら、近くにあるハイドパークホテル1階のティールームでゆっくりと時を過ごすことなどは、優雅この上ない。その後メイフェアをそぞろ歩きをすれば、ロンドンの良さが伝わってくる。
敢えてこの国の食事の愉しみということになれば、ホテルで早朝に受けるモーニングサービスが良いと思える。この給仕のスタイルは最近では徐々にすたれつつあると推測するのだが、早朝にドアのノックでまず目覚めさせられ、まだ眠気が残りベッドから起き出せない状態の時に、メイドがカートに紅茶やベーコンエッグ、パンなどを乗せ、ベッドサイドに朝食のセットをしてくれ、ベッドにいるままで食事につくのであるが、これ以上贅沢なことはない、まるで貴族にでもなったのではないかと思わせるに充分である。この朝食のスタイルはイギリスのみの独特のものであるようである。
クラリッジスやサボイのホテルのダイニングも荘重にして厳粛な感じがしてこれはこれで良い。ボーイがタキシードではなく燕尾服を着て恭しく給仕してくれるので、こっちは良い気持ちになる。30そこそこの若造に、背が高く、姿勢も良く、気品に満ちたりゅうとしたボーイが給仕してくれたので、良い気分になったのである。その雰囲気のみで満足させられた思いが強く、どんなものを食べたかについての印象がない。モーニングサービスといい、ディナーといい、テーブルマナーを大切にして、食事の時間中は少し気取った雰囲気の時が流れるが、味については大いに問題があるようである。食事についての形式美については威厳があって申し分ない。
ロンドンでは料理界の変化が著しいらしい。最近のことはあまり詳しくないが家内の親しい友人に、ロンドン郊外の大学で教えている人がおり、帰国時に我が家にも泊まったりするので、新しい情報も入ってくる。
最近では、各国の特徴ある専門料理店が多くなっているということである。中でもチェルシーあたりでは寿司屋がずいぶん流行っていて、日本で食べるよりは安くて美味しいと聞いている。他の地域にも寿司のブームは広がり(ベジタリアンが多いこと、ヨーロッパを騒がせている狂牛病も影響しているらしい)、各地で回転寿司が大繁盛しているということである。フランス料理店やイタリア料理店のメニューも豊かなものになって、ロンドンの飲食事情は面目を一新しているらしい。
ヨーロッパ全体を廻って感じるのは、ロンドンなど、その国の首都や都会などで会食する場合は、決してとおりいっぺんで誰にでも入れるような場所には本当によいレストランはないということである。ましてイギリスはクラブ制度の本家本元であることから、観光客など部外者がガイドブック片手に歩いたとしても真に美味しいレストランを探すのは難しいのかも知れない。しかしながら、サボイやクラリッジスなどのダイニングルームにおいてさえも、やはりイギリスの料理であると感じさせられる。つまり、食べる人、そして作る人の舌感覚はフランスやイタリアとは大きく異なっている事実は否めない。
前述のようにベッドサイドでとる朝の食事は非常に優雅なものであった。、最近ではかなり上質なホテルでも、ビュッフェスタイルが主流になっているようで、自分のその日の体調に合わせて食を選べ、また、自分の口にあったものを必要な分量取ることができるので便利である。ブリティッシュスタイルの朝食の場合は、量が多く、食べきれないほどのものがでてくる。イギリス、そしてドイツやスイスでは特にそうであるが、朝食時にシリアル(ミューズリー)が種類も豊富にボールに盛り込まれて並んでいるのは素晴らしい。これらの国での朝食で特にシリアルの豊富さと美味しさを感じたのであるが、宿泊したホテルによって、朝食にもばらつきはあるかも知れない。
イギリスなどではむしろロンドンといった大都市より、地方都市のヨークやチェスター、エジンバラなどに出かけてみると、地方特産の魚類などに美味なるものがある。ドーバーやブライトン辺りで、ドーバーソール(ひらめ)をムニエルやグリルにしてもらい、食すのはなかなか良かった。私の経験では、エジンバラ近くの北海の海岸の、名も知らない漁村で食べたメルルーサのフライなどは絶品とも言える味であった。身が分厚く、色の白い揚げたてのメルルーサは、鮮度のよいこともあって本当に美味しかった。これらの国々では魚を生で食べる習慣が無い、どんな魚も加工するか即冷凍をする。日本人はどうしても活き魚にこだわるが、一説によると海からあげていけすで生かされている魚ほど味のつまらないものはないとする人も多いようだ。プランクトンの豊富な海の中にいてこそ美味しさが感じられるのに生け簀の魚にはそれが無いというのだ。私もその様に思うがどうであろうか。活の良さと味の良さ、この二つの問題は重要だ。
イギリスの食でその他に特筆するものとしてはインドカレーがある。イギリス中どこに旅してみても、カレーに関しては特に美味しかったように記憶している。これは東インド会社などを通じてイギリスがインドを植民地支配した結果、イギリス本国にインド人の調理人などを多数受け入れたことによるのではないかと察せられる。イギリスでインド料理と言えば多少意外に思うのかも知れないが、パリでベトナム料理やクスクスなどののアラブ料理がおいしいのと共通した理由によるものと考える。
さて、その他のアングロサクソン系、ゲルマン系の人々の食卓についてである。
ドイツは、ソーセージのおいしさを上げることができる。材料のミックスの具合や、各地方の特色による各種のソーセージがあり、料理というより食材として秀逸の部類に入るだろう。この国の人はザウアークラウトを添えてビールのつまみにするようだが、私はこのザウアークラウトなどには何ら格別な思いはない。
さて、北欧である。私が今まで関心を持っている食べ物に、スウェーデンの発酵したニシンの缶詰がある。缶ブタに切れ込みを入れるとシューっと吹き出す例のアレのことである。
例のアレといってもわかりにくいが、何という名称なのか不確かなので表現のしようがない。ニシンの塩水漬け発酵食品とでも言えるのだろうか。「くさや」のようにとてつもなく臭い匂いがするとしてマスコミでも,何度か取り上げられた有名なものだ。雑誌やテレビでこれを見て是非トライしたいものだと思っていたが、2001年の年5月に北欧へ出張し、この缶詰を買い求め、試す機会を得た。
たしかに匂いは強烈であるが、発酵内容は日本の馴鮨にははるかに及ばず、塩辛いだけの他愛の無いもので、日本で食される慣れ寿司などとは比較の対象にはならない。小さいニシンの頭を取り除き臓物を除かないで、単に塩漬けして缶詰にしたものでありそれ以外の工夫は無い物であった。京都の鮒ずしなどとは比較にならないものである。ふかしたジャガイモなどと食べると美味しと、聞いたが、現地の人もあんなものを,よく食べるなという顔をしていた。こちらは関心を満たす気持ちと,土産にしてシューっと缶から出てくる、強烈な臭いで、人を驚かせようという計算だったのであるが。
地中海太郎
|
|
 |