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  イスラム風の服装など風俗について
一口にイスラムといってもイランやインドネシア、マレーシアまで幅広く、簡単に言い表すことはできないが、ここでは中東や北アフリカなどで見る印象について述べる。

トルコなど近代化されたイスラム世界の男性の服装は、背広を着て靴を履いている(戦前のレバノンもその通り)。カイロやカサブランカなどの都会など、機能性を重視する生活圏でもその点は共通している。しかしながら、都市におけるビジネスマンをのぞけば、男子の場合、頭からすっぽり被る袋状のジェラーバと呼ばれるフード付の服装をしているのが普通である。ジェラーバを着て、町中をぶらぶらしたりしている風景は、アラビア半島や北アフリカの人々には、よく似合う。

この服装の良さは、下に何を着ているのか判らないようにボロ隠しになるという利点の他に、防寒、防暑、防砂の為にはなくてはならないものなのだ。砂漠など乾燥地域の生活は日中と日が沈んでからは極端に温度差があるわけで、このジェラーバを着ることで、日中は太陽熱を遮り、夜は防寒の役目をするという具合だ。真夏の炎天下といえどもほとんど湿気がないため、防暑の働きを成すわけである。履き物は親指付のサンダルである。

その他の用途として、時間通りに来ない運行バスを待つ間、土漠の中にある停留所などでは、フードをすっぽり被って、いつ来るとも知れないバスを何時間も待つのである。もちろん、地べたにそのまま身を横たえてのことで、非常に便利な物である。

地面はほとんど水分など無い乾燥した大地なので、多少ホコリで汚れても、手で二,三回埃を払えば問題は全くないのである。以前、砂漠の真ん中で小用を足していたら誰もいないように思われた大地から忽然として人がわき出るようにあちこちに現れて驚いたと書いたが、彼らは又、徒歩で用向きを足す時には、目的地までの道のりの中で、疲れをとるために土漠に身を横たえて仮眠を取ったりもしているに違いない。

第三者には異様に見える服装でも、風土の違いによって、合理的にできている物だと感心できるのである。小生もマラケシュのバザールで言い値の1/3位で買ってモロッコ滞在中、何日か着て歩いたことがあり、快適さに手放しがたい思いをしたことがある。このジェラーバの下には普通ズボンをはいていて、上半身はセーターやジャケットを着ており、脱げば我々と変わらない服装をしている。

女性の場合も、身体をすっぽり包み隠すように男性同様のコートを身につけているが、これはジェラーバとは呼ばない。カフタンといって、生地や色合いにも女性らしく柔らかなイメージがある。フードはついていても普段あまり利用しないで、その代わり、日本の「おこそ頭巾」さながらに頭部をすっぽり隠しているのである。(独身女性はしない)アフガニスタンのタリバンが強要して付けさせた、ブルカである。

コーランの教えでは女性の肌は、夫や家族以外の男性には見せてはいけないと、教えられているので、いろいろな工夫をして身を隠している。頭巾のみでは口元や頬の部分などが露出するので、口元を着衣と同じ材質や色をした大きなマスクで隠し、更におでこから口元にかけてきめの細かいレース状の布で覆っている。誠に異様というか不気味な感じさえするのだが、慣れてくると何とも言えず、アラブに来ているという感じがしてぞくぞくするのだ。

顔面を隠すレースをつけない場合、露出する顔の部分にレース模様の入れ墨を施し、素肌を見えないようにしている。入れ墨と書いたが、日本の入れ墨のように針で刺すのではなく、ヘンナと呼ばれる植物の染料で顔に書くのである。もちろん、手首や足首も露出してはいけないので、この部分にも同様にヘンナで細かな模様を描いている。

最初にモロッコを訪れたとき、車付きガイド兼通訳のブラッヒムアカザンという青年を雇って、アルジェリアの国境を越えたり、アトラスを越えてサハラの玄関を訪ねたのだが、彼はとても紳士的で教養と礼節ともに言うこと無しで、ずいぶんとあちこち一緒に見て歩いた。その際、何故モロッコの女性は入れ墨をするのかと訪ねたら、それは信仰心の篤い証拠なのだ、という答えが返ってきた。コーランの通りに信仰を守れば、素肌の露出を避けるためにそうなるのだとのことである。それ以来、ちょっと異様に思っていたこのヘンナの染料で描いた入れ墨の女性を見ると、敬意も湧いてきて美しくさえ感じられるようになったものである。

この時のガイド兼通訳のブラッヒムアカザン君も今では五十歳になるのだろうか。本当に信頼できて、語学に堪能なそしてあらゆるアラブの歴史等について詳しい好青年であった。彼はその後、ショーンコネリー主演の「風とライオン」にもガイド役としてスクリーンに出演しているが、今でもガイドをしているのだろうか、読者の中にマラケシュのジェイ・マル・フナの広場で彼からガイドを受けた方もいると思うので心当たりがあれば消息を知りたいものだ。

衣装のことで書き忘れてならないのは、主として婦人の場合は、色によってそれぞれの部族が区別されている。同じベルベル族でもモーリタニア系とかチュニジア系、そしてサウジアラビア系とイエメン系など、一目で判るようになっているのである。そして青いカフタンで統一していればブルーメンと呼ばれ、これはサハラの方からの部族で交易のために来ていると判るのである。

判りやすい例えで言うと、中東和平のことで世界中を飛び回っているパレスチナのアラファト議長がいつも頭に被っている(カーフィルと記憶しているが)スカーフ状の物でも、そのチェックの色や形はアラファト議長の出自を明確にするのである。すなわち、このモザイクのような民族のアイデンティティーを明確にする手段となるのである。サウジアラビアなどは白っぽい布地を身体にまとい、頭巾はヘアバンド状の物で止めているが、このヘアバンド状の物にも工夫があって、クライシュ族であるとか、またはその地位がどの程度になっているのかということが識別されるようになっているとの事である。

女性はカフタンという袋状の上着の下に、色とりどりの欧米風の衣服を身につけているということである。このことは、筆者がアメリカ留学時代にイランパーレビ王族の、ファテマという女性が同じクラスにいて、彼女から聞いたことである。いずれにしても女性同士の集まりでは、結構華やかに衣装を楽しんでいるらしい。しかし、表に出て不特定多数の人と接するときは、単色のカフタンを身にまとっていて、地味に見える。珍しいと思ってカメラを向けたりすると大声で拒絶されることは必定である。 そのような地域を旅行するときは、観光客破は素肌を露出するような、ショートパンツやノースリーブは遠慮するべきであって、旅行を予定する場合はロングスリーブなどを持参すべきである。

地中海太郎

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