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  マルセイユからニースを経てマントンまで
海上から眺めるマルセイユの街は情緒があって美しい。ここの港からモンテ・クリスト伯の厳窟王で知られるイフ島やその先にあるちいさな小島に夜景を眺めながら小舟で渡ったことがあるが、今でも忘れがたい印象を持っている。友人たちや家内、そして義姉と車2台に分乗して、このマルセイユからコルシカのアジャクシオ(ナポレオンの生地)に一晩がかりでフェリーで渡ったことがある。離岸する際に、マルセイユの街を眺めながら、義姉の歌うパルチザンの独唱を聴いたのだが、その場の風景にとけ込んでいて、とても印象深く忘れられない思い出である。いまでもその時の歌の一節をわずかに覚えている。ちなみにこの時、我々が乗船した船は「カサノバ」という誇り高い名前をもつ、フェリーとは思えない豪華船であった。

マルセイユの町に足を踏み入れると、フランスというよりもどこか異国の町に来たような印象を持たざるをえないだろう。アフリカ、特にアルジェリアなどからの出稼ぎや移民が多いこと、しかもそれらの人たちが町を征しているかのような強い印象のある港町であることを知ることになろう。町中いたるところにクスクスを食べさせる店があり、強いミントの香りを味わいながらティーを飲んで一休みすることも一興ではある。 しかしながら、マルセイユの港は日本人の我々からすれば、かつてフランスへの第一歩となった土地である。古きよき時代には、皇族や、画家、作家など(藤田嗣治や近年では遠藤周作など)もフランスへの第一歩をマルセイユで踏み出したのである。いわば憧れの港町であるとの印象を持っているのではないだろうか。少なくとも小生にとって最初に訪問した二十数年前には、そのような憧れがあった。

しかし、現実にはフランスのマルセイユでありながら、アルジェリア等ヘの玄関口であることは間違いないのであって、カオスのような印象もあり、そのような事前意識を持って行かないと、期待が裏切られることになる。そのかわり、さすがマルセイユだけあって、港を望む一角にはレストランが集まっている場所がある。ここではブイヤベースやムール貝などの魚介料理が安くて豊富に食べられるので、食道楽を任ずる限り、一度は訪れなくてはならない土地である。

少し離れた内陸にはエクス・アン・プロヴァンスがあり、ここはセザンヌが終生居着いて、その風景を絵に描き続けた町である。この地域の文化の中心地にふさわしく、落ち着いた、とても素晴らしい、住みたくなるような雰囲気のある町である。彼が良くモチーフにしたサン・ビクトワールの山は何処からでも望める、機会があれば是非に行くべき所であろう。セザンヌの質素なアトリエは、一見貧相な感じだが、セザンヌらしい落ち着きがあり安らげる場所でもある。

プロヴァンスと聞けば、あらゆるハーブが大地に満ちており、世界最大のハーブメーカーもこの近くのオーバーニュという小さな町にあるが、訪問して聞いたところでは、プロヴァンスのみならず南米やアフリカ、アジアなどから、ありとあらゆる香草類を集めて、スパイスを作っているとの説明を受けた。

少し走って海岸線に入れば、ツーロンの軍港を脇に見ながらサントロペに至る。かつては素朴な漁村であった、このひっそりした人里離れたリゾートには、今では形容しがたいほどの豪華なヨットが係留されている。夜ともなると、港に接岸したクルーザーの後部デッキには大きな生花が飾られ、今宵の船上パーティーのゲストを迎えるためにデッキが出され、ボーイたちが船上で忙しく働いている姿が否応なく目に入る。サルデーニャのポルトチェルボやマルベージャのプエルトバヌース同様、世界中から大富豪や石油成金や王族たちが集中的に集まって来るのに違いない。この小さな町にはエルメスやグッチなどの店が出展していて何でもそろうが、特権階級のリゾートファッションなので、日本人の観光客には派手すぎて似合わないだろう。

サントロペから10Kmほど車に乗ると、地形が平坦になって間もなくPort Grimaudというベニスを小さくしたような運河の町がある、リゾート兼用の、家族連れでにぎわうテーマパークのような小さな運河の町で、徒歩で1時間もあれば町をまわることが出来る、少し面白い場所である。この町のことは、日本のガイドブックなどには載っていない。取引先の社長夫人からサントロペの近くに可愛い町があるので寄ってみたら、と言われて、近くを通ったときに立ち寄ったものである。

10年ほど前には、サントロペからサンラファエルを通ってカンヌに抜ける道は細い一本道の海岸道路で、素晴らしい景色があって、コートダジュールに来ている気分を十分満足させられたが、2〜3年前に通ったときは、2車線の立派な道路に変身しており、ヒヤヒヤすることなくすーっと通れるので、あまり面白みがなかった。もちろん、車を停めて海の青さを眺めれば、世界に冠たるコートダジュールであることに変わりはないけれど。

ドライブして断然眺めが美しい海岸線は、スペインのコスタ・デル・ソルと南イタリアのアマルフィ海岸、そしてこのコートダジュールをもって嚆矢とするであろう。もちろんアメリカ西海岸のペブルビーチゴルフ場のあるサンタクルーズやモンテレーの海岸線も良いのだけれど。

カンヌに入ると、いわゆるコートダジュールの中心部に入ったことになる。ニースやモナコ、モンテカルロなど、季節を問わず、観光客で込み合っている。いわゆる海岸銀座通りであるが、観光設備や美術館、それに加えて立派なホテルが林立しており、愉しみに事欠くことはない。この地域のことは、あらゆるガイドブックに紹介されているので、敢えて触れることはしない。

近郊のカーニュ・シュール・メールやグラースの田舎、そしてヴィル・フランシュやボーリューなどの小さな海岸の町などは、落ち着いたとても居心地の良いリゾートである。ヴィル・フランシュはジャン・コクトーが好んで住んだ町でウェルカムホテルという英語表記のホテルではあるが、コクトーが20年にわたって常宿にしたホテルである。こじんまりして寛げるアットホームなホテルである、ここの朝に食べたクロワッサンはとても美味しかった。ここからイタリアとの国境に接するマントンの間には、彼の作品が無数に残されている。

高台のエズ・ヴィラージュは、断崖から地中海を一望する村であり、特にシェーブル・ドールやシャトー・エザのホテルのテラスから眺める地中海は素晴らしい。ニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」は、ここで着想、執筆されたと聞いている。大自然の感動、生命の起源である海の偉大さの中から何かを啓示されたに違いないものと思っている。私はこの眺望が気に入り、フィルムにおさめ、地中海を代表する風景写真として大切にしている。ユダヤ金融資本の雄でもあるロスチャイルド家の別荘もこの高台からボーリュー岬にかけて立地されている、この辺もまた漁港があって新鮮な魚貝が豊富とみえて気のきいたレストランがなぎさギリギリに立ち並んでいる。

すぐ近くには、熱海のような地形をより豪華にソフィスティケートした市街としての、モナコやモンテカルロがあるが、大金持ちになったら、気のあった仲間たちと長逗留などして、こころゆくまで逗留してンジョイしたいものだ。

マントンはイタリアとの国境の町であり、昔の漁村がリゾート化し、今はヨットマンの集まる場所として世界的に有名であるが、各種の芸術祭なども開催される土地である。早春にはレモンの祭りがある、町の一角には、日本の菊祭りのように、木組みの造形の表面をびっしりレモンで覆いつくした様々な建物などのモチーフが飾り立てられ、町中にレモンの爽やかな香気が満ちあふれる。もちろんそこではレモンチェッロとか、レモンの蜂蜜、レモネードなどを町の人が観光客に振る舞って、マントンの町をアピールしている。

この地域も自動車道が整備されていて都市間の移動は快適である。だが、スペインの(時として)単調な風景と違って、細道などを走れば、昔からの落ち着いた田舎風景に出くわしたり、海岸を走れば素晴らしい南仏を満喫できるので、プロヴァンス地方は出来るだけ主要道を避けて、時間に余裕を持ちながら、小さな道をドライブするのがよい。

(私は長時間ドライブするときは、何日分かの洗濯物をためておき、小さな田舎の村などで井戸端会議でたむろしているご婦人たちの輪の中に入っていき、事情を話して洗濯機を借り、脱水までしてもらう。その後景色が良く陽当たりの良い場所で、木々の枝などに洗濯物をかけて、乾燥させるのである。非常にちゃっかりしているのだが、このようなことから、個人の家にも招かれてコーヒーをごちそうになったりすることもあり、そのような出会いを愉しんでいる。)

地中海太郎

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