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  ダリ美術館とフィゲーラスの町、そしてカダケスの3つ星レストラン
バルセロナ周辺のカタルーニャ地方は峻険な山もなく、程良い起伏がうねり、農地の緑の合間に小さな岩肌が点在するという風景でのびやかである。バルセロナは内陸の大きい都市、サラゴサを分岐点にしてマドリッドまで8時間前後であり、バスクのビルバオ辺りまで同じように交通網が整備されており、内陸の物産を海外に送り出す大港湾都市でもある。しかし、ここから北上してフランスの、かつてカタルーニャであった地域の海岸線まではコスタブラバと呼ばれ、荒々しい断崖が海に臨んでいる。もっとも現在のフランスのペルペニアンを過ぎれば、ナルボンヌ、ニームを経てマルセイユまでは広大な湿地がひろがり、カマルグ地方は世界的にも有名な鳥類の生息地として知られている。

バルセロナから1時間も走ればジローナ(カスティーリャ語ではヒローナ)に入る。ご多分にもれず、バルセロナなどの大都会を近くにもつ街として、軽工業や食品加工などの生産拠点になっている。バルセロナから車で街の中に入ったときは、なにか雑然とした印象があったが、もう少し奥に入って旧市街に行くと、一変して落ち着いた奈良や京都などにも似た雰囲気を感ずることができる街であった。それもそのはずで、この街は、カルタゴやギリシャ、ローマの侵略を受け、さらにはスペイン内戦でも戦火をかいくぐってきた歴史をもつ。自らそれに耐えのびてきたのであり、風格を持つのは当然であろう。

そのジローナから小1時間も走ればフィゲーラスに出る。言わずと知れた世紀の奇才にて大天才サルバドール・ダリの街である。およそ世界中に、ルーブルやロンドンのナショナルミュージアム、マドリッドのプラド、そしてニューヨークのメトロポリタンなど、数多くの著名で立派な美術館はあれど、ここのダリ美術館ほど興味深く面白い美術館は無い。カタルーニャ地方のパンの形をしたフォルムを壁に貼り付けた、変わった建物ではあるが、興味はそれだけではない。適当にこじんまりした中にダリの本質をあちこちにちりばめていて、見るものを飽きさせない。バルセロナに行く機会があったら、ガウディのサグラダ・ファミリアも良いが、ちょっと足をのばしてフィゲーラスに行くこともおすすめする。世界的に著名であったダリがこの地にこだわった理由がわかるであろう。

ダリの芸術だけはルーブルに飾ってもメトロポリタンに飾ってもその真価は発揮されないだろう。やはりこのほど良い大きさの、フィゲーラスの街の規模と、そこに住む人々のもつ雰囲気など、その集大成としてダリ美術館が存在するからだろう。

ダリは他人を愚弄するような理解不能な前衛絵画の巨匠ではあるが、現在の前衛芸術家が目標を定めることができなくて訳の分からない芸術を披露しているのとは違うように思われる。既に前半生で従来の具象絵画家として名声を欲しいままにしたその実績の上に立って、それ故に、そのダリ自身が表現する芸術の領域をだれも否定できないという頃になって、奇妙な表現をするようになったわけである。もちろん、芸術的ひらめきに裏打ちされていると思われるが、そこには、もはや誰も自分の描く芸術に反論することはできまいとして、高みから、冷やかしをまじえた気分で眺めているといった様子があったのではないだろうか。ピカソについても同じような感慨をもっている。あれだけの具象の時代をもつ大天才をだれも批評できないのだから。

そのダリのモデルに再三登場する夫人の生家がフィゲーラスからほど近い地中海に面したひなびた保養地カダケスというところにある。途中険しい山を越えて海岸に至れば、小さく可愛らしいカダケスはリゾートクラブで有名な地中海クラブ発祥の地である。ひっそりして静かで、バカンスを楽しむには申し分ないところである。夏には世界中から富豪が集まりにぎわっている。私は2度行っているが、残念ながらいずれも2〜3月のオフシーズンのみの巡り会いで、寂しくてわびしいカダケスしか知らない。

ひんぱんに旅をしているせいか、今ではミシュランの地図に頼ることなく、走りながら直感によって行き先や、訪れるレストランを決めていくようにしているが、悔やまれることがこの地であった。先年、敬愛する津市にお住まいの藤田先生から、カダケスから少し入った場所にエルブジという素晴らしいミシュランの3つ星レストランがあるが最高だったということを聞かされた。藤田先生は医師という仕事の合間を作っては、ヨーロッパ全域にわたって食べ歩きしているエピキュリアンである。国別のみならず、主要地域の分化されたミシュランの地図とガイドブックをいつも枕元におき、計画を立てながら、ミシュランの星のあるレストランを楽しんでおられる。その話を聞いたときには、今度機会があったら立ち寄ってみようと漠然と思うに過ぎなかったが、後で地図を見てみると、ポツンと離れた所にあるので次はいつになるだろうかと思っていた。

しばらくしてリストランテヒロの山田宏巳シェフと約1週間、毎日顔を合わせる機会があり、その時いろいろな話になって、彼が若いときペルピニアンでビーチボーイのアルバイトしながらその土地に滞在した話を聞いた。彼の行動半径の広さに驚きを覚えるとともに、食の話になり、ミシュランの星を代表する素晴らしい店として「エルブジ」が出てきたのである。彼の評価でも第一級の店であり、パリやモナコのアランデュカスの店を抜く良さであり、近年の訪れた店としては最高の店だったと聞かされたのである。「オヤジさん今度機会があったら一緒に行こうよ」と言われ、即座に同意したのは当然である。実は車を馳せて、自由自在にあちこち歩いている小生にとってもカダケスは他の地域との接続という意味で便が悪く、そう簡単に行く機会がない場所である。そしてつい後になって何かの雑誌で、料理評論家で著名な山本益博氏のルポルタージュの中に、やはりエルブジの良さが書かれており、最高の出来で感激したと書かれてあった、さらには愛読する「専門料理」の2001年春の別冊号での伝のスペイン特集記事によって、次の機会には是非訪れてみたいところとしてエルブジが頭の中にインプットされている。

地中海太郎

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