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  アンダルシアの話にもどって
さて、アンダルシアを旅して一番印象に残るところはどこかと聞かれれば、私ならグラナダが一番と答えるに違いない。私はこの町が好きで、いろいろな行き方で何度も訪れている。最初の1970年少し前の頃は、日本人観光客はほとんど無く、終日落ち着いてアルハンブラの静けさを愉しみ、ヘネラリーフェの園で水音を聞いてシェラネバダの万年雪を眺めたものだ。だが、1980年以降になると、アメリカ人やドイツ人などの多くの観光客だけでなく、日本人の団体客がバスに乗って大挙押しかけてきており、ゆっくりその居心地を味わうことができない気がする。加えて、最近韓国や中国からの観光客も多くなっているようである。

30年以上前は、日本人という意識が観光地のスペイン人の間にあまりなく、我々日本人のことをチノチノ (Chino=中国人)とスペイン人の子供たちがはやしたてていたものだが、それを考えると隔世の感がある。今では中国人や韓国からの観光客はハポンハポン(japon=日本)と言われているに違いない。いずれにしても個人観光客というより、団体観光客が大半であるため、人が殺到する感じで、人気のライオンのパティオやヘネラリフェの庭園は静けさの中で、ゆっくり鑑賞し味わうべきなのに、よほどの幸運に恵まれない限り、喧騒の中でしか味わえないのではないだろうか。今では入場券を買うのでさえも長い列を作らなければならないし、入場制限も行われている。

このアルハンブラの宮殿は、イスラム教徒であるモロッコやアルジェリアのベルベル民族を中心としたモーロ人と呼ばれる人達によって建設されたのであるが、完成して間もなく、レコンキスタ(国土回復運動)によって、その居心地を確かめる暇もなく、追い出されたのである。さぞかし悔しかったに違いない。イスラム教徒がおよそ800年にも亘る長い年月をかけて、維持発展させ、その文化の集大成と思えるこのアルハンブラ宮殿の完成直後に異教徒である、キリスト教徒に無条件で明け渡さざるを得なかった、その心境はいかばかりであっただろうか。

グラナダとはざくろのことを意味するスペイン語だそうだが、まさしく黄土色というか赤色ともいえるこのアルハンブラ宮殿は、内に入ればすなわちざくろと同じように、真紅の実にも似た華やかさが潜んでいるのである。

世にこれほど安らげる宮殿はあろうか。ベルサイユの豪華さやシューンブルン宮殿などの立派さに比べれば、漆喰とレバノン杉を梁にしてできただけの質素な建物と言えなくもない。これでもかこれでもかというようにけばけばしい感じがする他のヨーロッパ諸国の王宮と比ぶべくもないが、ここにはこよなく安らげる空間があるのである。

私は世界の三大建築物は?と問われれば、そのうちのひとつに豪華壮麗なものとしてベルサイユ宮をあげる。いまひとつはインドのアグラにあるムガール朝の霊廟であるタージ・マハールをあげる、シンプルで瞑想を誘う名建築であると認めないわけにはいかないのだ。そしてかならずやアルハンブラ宮殿をそのうちのひとつに数えるに違いない。

アルハンブラの良さは居心地のよさである。モザイクは精緻を極めており、贅沢きわまりないが、元々土を焼いただけのタイルである。天井もまたレバノン杉で作られたもので、格別、金銀や宝石をちりばめたりしていない質素なものである。しかしながら、この建物は、誰にとっても、安らぎとくつろぎを与えてくれる名建築だと確信する。

さりながら、見る者にとってこれほど艶めかしい建築もないように思える。静かなる華やぎというものであろうか。その昔、アラブの公達が、ライオンのパティオの周辺に、うす衣を着た美女を侍らし、クッションや絨毯を敷いて、悦楽の時を過ごさんとして築造された宮殿と知れば、それもムベなるかなと思える。裸足でヒタヒタと大理石の上をうす衣を着た美女たちが歩き回る光景を思えば、思わずゴクンと生唾ガ出そうになることを禁じえない。威圧感もなく金襴緞子で飾り立てたけばけばしさがなく、それでいてこれほどまでに華やいでいる宮殿は他に知らない。

ヘネラリフェの庭も程良い大きさで、万年雪を頂いたシエラネバダの清々し秀麗さと糸杉の間に咲き乱れる花々の美しさが素晴らしいコントラストを見せ、とても印象的であり、終生忘れがたい思い出を与えてくれる。

宮殿の窓から眺めるサクラモンテはジプシーたちが横穴を掘って住んでいた地区だが、今ではフラメンコのタブラオなどを経営して観光客を呼び寄せている。反対に、このサクラモンテやアルバイシンから見るアルハンブラ宮殿の眺めは、筆舌に尽くしがたいものであって、まだここを訪れていないなら、是非におすすめする。

観光客相手のフラメンコではあるが、なんといってもフラメンコ発祥の地なので、一度はサクラモンテにも立ち寄ると良いだろう。現在では本場はセビーリャであり、さらに最もショー化されたものはマドリッドにある。横穴をプラスターで塗り込めた小さなタブラオは、元々は生活の場であって、天井から鍋などの調理器具が無数にぶら下がっている。

シエラネバダには万年雪があって、その山麓は緑の沃野が広がっており、豊かな土地柄であることを感じさせる。ここのランハロンと呼ばれるミネラルウォーターは、フランスのエヴィアンや、イタリアのサンペレグリーノなどと比較しても負けないくらいの美味しい水である。私はこのランハロンのミネラルウォーターが何故日本に入っていないのかいつも疑問に思っていた。自分で輸入販売して少し金儲けでもと思わぬではないが、いろいろな事情があり、これはやめにした。どなたか変わりに輸入してほしいものである。もっとも今ではノルウエーなどの極地に近い場所の水がおいしいと思ってはいるが。

地中海太郎

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