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  サルデーニャの独自性とその心象風景
この島は地中海のほぼ中央に位置し、シチリアに次いで大きな島であるが、シチリアに比してさほど他国の侵略を受けず、その風土の中からサルデーニャ独特の文化を発展させてきた。

しかしながら南西部カリアリ郊外にはpura (nora)というギリシャ時代の植民都市の遺跡があり、北西部分のアルゲイロの町はかつてスペインのカタロニアに征服された影響が残っており、年長の人の間では今でもカタラン(カタルーニャ語)が通じる。

観光目的の日本人にはサルデーニャといえば、コスタ・スメラルダに(エメラルド海岸とも呼ばれる)代表される贅沢なリゾート地として知られることが多いようだ。しかし何度かイタリアに旅行した人々が最後に訪れる島がサルデーニャであり、その意味では未だ団体観光客には汚染されていないと言えよう。このことから、非常に安らいで異郷を愉しめる場所であると言えるだろう。

ポルトチェルボは武器商人として世界的に有名なアガカーンによって比較的新しく建設されたリゾート地である。コートダジュールやリヴィエラといった都市化されたリゾート地に飽き足らない世界の金持ちの人々を対象として、豪華ながら非常に落ち着いた雰囲気のホテルやそれを取りまく別荘群によって形成されている。代表的なホテルのショッピングアーケードにはエルメスやグッチ、フェラガモなどの高級直営店が軒を連ねており、ホテルのダイニングにも一流のシェフが揃っており、その快適なること、高額な料金を支払ったとしても納得できるものである。

たいていの日本人観光客はオルビアの空港に降りて、コスタスメラルダに1〜2泊して、またイタリア本土に戻るようで、サルデーニャとはコスタスメラルダのことだと思っているかもしれない。しかしながらサルデーニャ人またはサルデーニャを良く知る人々にとってはコスタスメラルダ(エメラルド海岸)を除いた土地こそがサルデーニャなのである。

世界の歴史の中で最も古くから牧羊を始めたといわれるサルデーニャ島は、今でも島全体が牧羊を中心とした農業の盛んな国である。のびやかで心休まる島であるとの心象風景は、緑の平原に群れる羊たちを見て誰もが感じることであろう。

一方で、比較的大きくてなだらかに広がっているこの島の中央部ヌオロからアルバタックスの東南部にかけて険しい山岳地帯がある。古来、島のならずものが村八分同然にされて、その深く険しい山岳地に移住して山賊同然の悪さをなし、誘拐殺人などが頻繁にあったことから、ヌオロを中心とするサルデーニャは陰の国と呼ばれる不名誉を受けてきた側面も持っている。羊飼いなどの集団を形成しながら、トスカーナの奥深い地方で、誘拐に関わっているサルデーニャからの集団がいるということを塩野七生氏の書によって知った。

世界史上にその祖先が特定できないといわれる三大不思議は、スペインのバスク人、イランやトルコなどの国境に住む少数民族クルド人、そしてサルデーニャ人だと言われている。サルデーニャ人がどこから渡来したのかについては、その言語などからも解明されていない謎だとされるが、私の長年の旅行経験からの直感では全く根拠が無いのであるが,クルド系とまじった小アジアからの渡来ではないかと思っている。もちろん現在ではこの島にはイタリア本土からもヨーロッパ全土からも人種的同化が進んでおり、サルド人特有の容貌のいかつい人々はまれにしか見られない土地になっている。

人柄、気質に至っては前に述べたことと重複するが、北イタリアや南イタリア、そしてシチリア人などと比較しても、際だった違いが見られ、寡黙で毅然としており、素朴で心優しい、とても安心してつきあいのできる人々が多いという風があり、私にとっては心安らぐ土地である。

コスタスメラルダを除く真のサルデーニャについて、一言で語ることは難しいが、敢えていえば、無駄な装いがなく、地味ながら敬虔に生きる素朴さにその特質があると言えるのではないだろうか島には先史時代からのヌラーゲといわれる遺跡(居住、祭祀、集会などに使用したという)が点在し、それを取り巻く牧畜風景は決定的に穏やかな島であるとの心象を与える。生活の原点に近いものを見いだすことができる気がする。

海は表現のしようもないくらいきれいに澄み、青々としている。冬のティレニア海のしけ時化やコルシカ島との間にあるマッダレーナ海峡の荒れるとき以外の凪いだ海の光景は、なんと表現すればよいのか、言葉もない感動を覚える。この地に立ち、ポエニ戦争などのフェニキアの昔を追想すれば旅情はこれに尽きるといっては言い過ぎであろうか。

島の全周囲を車でドライブして気がつくことは、サッサリ、アルゲーロ、ボサ、カリアリ、アルバタックス等ごく一部の港町を除けば漁港と呼べる大きい集落はない。海岸線は果てしなくきれいな岩礁と砂浜でつながっており、ことさらにその自然の無垢に驚かされることは間違いない。

私の友人で元カリアリ大学の教授であったコーゲ・クイリーノ氏によると、古くよりサルデーニャ人はフェニキア、ギリシャ、スペインから(シチリア人ほどではないが)侵略を受けている。その侵略はいつも海からやってくるので、サルデーニャの人々の間には海を恐れる気質が育ち、同時に侵略者からの被害を逃れようと豊かな内陸部に生活の場を求めて入っていったため、海岸線の自然が維持されてきたとのことであった。サルデーニャでは海に囲まれていながら魚を食べず、肉食を中心とした食生活を送っているというのもこれが一因であるという。

大規模なコスタスメラルダのようなリゾートが形成されたり、現在ではカリアリのような産業都市周辺の海岸に大規模な重化学工業などのコンビナートが建設されていることは(日本のブリジストンタイヤ工場も進出している)、未利用地があり余るほど残っていたからに他ならない。サルデーニャ好きの小生にとっては、その美しい自然が産業立地化することに大いなる寂しさを禁じ得ないのである。

この島の交通機関は電車よりバスの方が便利に思われるが、なんといってもレンタカーに限る。主要都市をつなぐ道路は立派に整備されており、難儀することはない。電車も南北を縦断する幹線があるけれども運行本数が少なくとても不自由である。島を一周ドライブしてみておもうことは、日本の道路沿線に見られる宣伝看板が皆無に近いのでゆっくりと自然を満喫できる。

牧羊の歴史は世界で一番古くからサルデーニャで始まっており、内陸全体に及んでいる。島の中央部ヌオロから東南にかけての山岳地帯は、名高い誘拐団の巣くう地域なので、枝道に入り込むことは慎んだ方がよい。五月のはじめにはカリアリを中心に伝統的聖エフィシオの祭りがとても華やからしい。カリアリは島一番大きい町で何でも揃っている大都会である。この島の素朴さを味わいたければ、アルゲイロやボサ、そしてローマ遺跡のノーラなども情緒があってとても良い。食べ物は、牧羊が盛んな島であり、各種の肉や乳製品、特にペコリーノチーズなどが美味しい。チーズなどは道路沿いで、直接生産者からも買える。魚介類に至っては驚くほど豊富である。うなぎの養殖も盛んに行われている。

からすみはイタリア語でボッタルガと呼ばれるがこの島の特産品である。オリスターノ近くのカプラスがその中心地である,夏から秋にかけて海水と淡水が交じり合う場所にカメラ・デ・モルト(死の部屋)と呼ばれる仕掛けでボラを水揚げするのである。ここでの生産量は日本の数十倍はあるようだ。

私の経営する地中海フーズ株式会社がはじめてこの地からその輸入をしたのであるが,今では追随する社もでてきておりいささかながら我が愛するサルデニア島に貢献出来たものと思っている。ことのついでに言うとここでのからすみ即ちボッタルガの歴史はフィニキアの時代からだと言われており,そうだとするならば優に2000年以上の歴史があることになる。日本には織田信長の時代にポルトガルなどの航海者によってもたらされ以後大名に献上されて定着したらしい。織田信長にその品物の名前は何というのかを問われて、献上した人がとっさに唐の墨に似ている事からカラスミと答えた、そんないきさつからカラスミと呼ばれる事になったらしいのだ。そのカラスミを初めて日本に輸入したはじめの頃は、カラスミの生産は日本こそが本場であると思っている人がほとんどで、ヨーロッパがその本場であるといっても信じてもらえずいささか苦労したものであった。今では少なくとも業界の方々には理解されるようになって,おおくのリストランテを始めとしてパスタなどの料理に使用され出したことで、その苦労は十分に報われてきている。このカラスミは古来からエジプト、トルコ、ギリシャ、イタリア、南仏、スペインなどで造られており今でもその生産量の総計は優に日本の100倍は超えるものとみられる。

サルデニアの海の透明度は世界でも最も高い部類に入ると思われる。取り巻く海域ではクエやアンコウそしてウニや鯛、ひらめ、伊勢えびなどの高級魚が豊富であり,食の楽しみには事欠かない。また島の中央部で生産されるベルナッチャワインは独特の味わいである。もちろん牧羊の歴史では世界で一番古いことから羊のチーズ・ペコリーノは欠かせない。

サルデーニャの良さは、時を忘れさせてくれる風土と人々の気質だろう。これは南イタリアやシチリア、そして北イタリアと比べても際だった違いである。素朴な大地と、忘れ難いのびやかな風景、質朴だが暖かいホスピタリティー、これがこの島の特長である。

地中海太郎

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