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  イタリアとそれを取り巻く地中海世界
ナポリのならず者 カモッラ

ナポリはシチリアのパレルモと空路および海路ともに便が良く、物資の集散や国際航空を利用するシチリアの人にとってもシチリアのもうひとつの玄関の役を果たしている。そのようなことと、アメリカで司法の手から逃れたマフィアの親分たちが出入りする町としても、パレルモと並んで、悪名高いのである。

「ナポリを見て死ね」、いわく、日光を見ずして結構というなと同義だが、この町の雑然として品の悪い雰囲気というものはけっして誉められたものではないように思う。元来、この町がマフィアに汚染されるまでは、カモッラと呼ばれる博徒を生業としたならず者がはびこっていた町なのである。

アメリカの暗黒街に君臨したアルカポネはこのナポリからの移民であり、シチリア人でないためマフィアに入れなかったとの事である。いわば暗黒街では傍流に過ぎず、派手なアクションで人目につこうとあれこれやったらしいが、そうだとすれば、やはりナポリ人だということになるのであろう。

おなじ南イタリアといっても、ナポリの人間とシチリアの人間はまるで違う。シチリア人も陽気で人なつっこい点では似ているが、無駄な駄洒落など、つまり必要以上のことについてしゃべらないのである。寡黙で仲間をかばい合うのがシチリア人男性美学なのに対し、ナポリの男たちは、おしゃべりで調子が良く腰も軽くて悪くいえばいい加減なのだ。その上、パフォーマンスが派手ときている。北イタリアの人達がナポリ人と聞けば、てんで相手にしないというのも頷かざるをえない感じがする。

シチリアのマフィアのような深い苦しみと悲しみの歴史の内で培われたものとは違い、ケバケバしい、ならず者の集団、それがカモッラといわれる,ならず者集団なのである。次第にマフィアの使い走りとなって、同化吸収されていったようである。(マフィア − 竹山博英著 講談社現代新書から)

カラブリアの誘拐集団「ヌドランゲタ」

イタリア本土最南端にレッジョ・カラブリア地方がある。この問題には隣のバジリカータ州も含まれるが、凶悪誘拐事件の多い土地柄である。

問題の根源はやはり、貧困にその原因があるように思われる。イタリアの最南端は極めて峻険にして突兀とした地形で各集落ないし都市と都市の間は完全に遮断されているような感じで形成されている。長靴の形をしたイタリア半島は細長いこともあって、その中央部にあるアペニン山脈が南北に走り、パダナ平野とプーリア州をのぞけば、日本以上の山岳の国と言えるであろう。

そのような峻険な地形の中に点在する集落や都市間を結ぶ道路というものは、極めて頼りないもので、単線または砂利道の危険極まりない線で結ばれている。住民の暮らしは麓の小さな盆地に形成されたわずかばかりの耕地によって成り立っているが、これではとても多くの人口を抱えることはできないし、ましてや移出できるだけの量産もできない。工場などの産業用地も道路事情の悪さもあって、無論立地されていない。

最近でこそ,この地方も道路の整備により、短時間で他の地域と交流できるようになってきているが、日本でいえば、群馬県と長野県境にある妙義荒船山塊の八合目付近を縫うように高速道路が走っており、カラブリアとバジリカータ州の住民の暮らしは高速道路を外れて狭い地方道を深く入り込んで見なければその実状を知ることはできない。

このように他を寄せ付けない地勢では、各集落に根付いた封建的家長制のような社会構造が生まれるに違いない。そのことは、それぞれの家長の下に結集した仲間同士の情愛の濃密さと、身内の利益を確保、保持するために強烈な気質が育つのは当然である。

シチリアのマフィアのように他国からの侵略によって仲間内の結束が固くなっていったのと事情はかなり違うが、秘密を守る身内の利益のためには容赦なく他を排除するといったことは、これによって助長されたのは想像に難くない。

以前に(1970年前後)、アメリカの石油王、ポールゲッティの息子が誘拐されて発見されたのもカラブリア山中であったと聞くが、巨額の身代金を支払って、解放されている。私の古い友人で、東京の新橋にある松岡美術館館長の松岡美恵子氏によると、ゲッティ氏は世界的金持ちにもかかわらずケチで、自宅の来客用の電話はコインを入れなければ使えなかったとのことで、息子の切り取られた耳を送られるまで、身代金の支払いを渋ったとのことである。このようにして身代金目的のため、ローマやミラノなどで要人や大金持ちを誘拐して、場合によっては山中に遺体を隠すなどのことが再三あり、イタリアで誘拐事件があれば、死体はカラブリアの山中から出てくると言われるほどなのだ。因みに松岡譲は今は亡き父の松岡清次郎に同道してポールゲッテイ氏邸を何度か訪れていたと記憶している。

ここでも犯罪の根源にあるのは、貧しい大地の中での生活の困窮である。手っ取り早く自分達の欲求を満たすために犯罪集団が増殖したのだ。(興味ある方は、竹山博英著「マフィア」講談社現代新書にこの地域のことが詳細に書かれてあるので参考にされると良いと思う。)

フランスのコルシカ島のヘロイン製造所が仏当局の手入れにより壊滅的打撃を受けた。いわゆるマルセイユのフレンチコネクション崩壊後は、中南米のペルーやコロンビアの麻薬組織と販売面で暗躍するアメリカのマフィアによって、今度はカラブリア山中深くでヘロインの精製が行われ、今ではカラブリアの暗黒組織「ヌドランゲタ」とマフィアの協力関係が密になって、全欧州をもターゲットにした麻薬密売の巣窟になっているようである。

カラブリアのコセンザやレッジョ・カラブリアの町では、田舎過ぎて何かと不便なのであろう。今では彼らの暗躍の世界はシチリアのカターニャを拠点にしていると聞いている。カターニャはシチリア第二の都会で、近くにタオルミーナなど世界的な観光保養地もあり、また国際線の発着に便利なカターニャ空港もある。犯罪の陰でわずかばかりの優雅なひとときを、ならず者らしい派手さで満たすには充分かも知れない。竹山氏の「マフィア」によれば、カラブリアを離れた移民の数は1955年から1975年の20年間におよそ75万人あったとされ、ほとんど信じられない数字である。ちなみにカラブリアの総人口は210万人だったとある。

カラブリアからアメリカのみならず日本にも多く転業を求めて定着しているが、これら人々は故郷で生活が成り立たないという理由とは別に、暗黒の集団が跳梁跋扈することに嫌気を感じて国を捨てたものであろう。

地中海太郎

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